恵比寿日和
私の好きな本 その4 「日本の色辞典」
第4回のご紹介は「日本の色辞典」(吉岡幸雄 紫紅社)です。
日本の伝統色のうち209色を中心に、379色の色名解説と植物染料で絹布を染めた色見本や
関連する植物・風景・織物などの写真が掲載されています。
(色見本については、一部岩絵の具を和紙に塗ったものもあります。)
桜色、萌黄色、山吹色といった馴染のあるものから麴塵(きくじん)、空五倍子色(うつぶしいろ)
といった色名も色合いも本で初めて知るようなものまでたくさんの色が見られ、
もともと「色」、特に日本の伝統色が好きな私には持っているだけで楽しい、という本なのですが、
この本の素晴らしいところは何と言っても、日本の伝統色を再現した布の美しさ。
淡い色から濃い色まで、植物だけでこんなにも深く澄んだ色が、と驚かされ、
眺めていると色から力をいただけるようです。
色名も興味深いものです。
「自然の一瞬の姿、花のひとひらや風に揺れる枝葉の裏表に、木の実の色と形に、
人々は魅せられて、それらにゆかしい名をつけるようになっていった。」と前書きにありますが、
曙色、若菜色、朽葉色、団栗色といった色名を見ていると、万葉の昔から王朝の貴人、
武家、江戸の庶民と受け継がれてきた日本人の自然への想いに触れ、
つながるような気がします。
「卯の花色」というのもありますが、卯の花はウツギのことだそうで、
里山ユニットでお目にかかったっけ、と5×緑にご縁をいただいてから
新たに親しみを覚える色も増えてきました。
著者は江戸時代から続く京都の染屋の五代目当主で、
染師の方と共に植物染による日本の伝統色の再現に取り組んでおられるのですが、
長く美術工芸の出版に携わっていたこともあり、染めの体験談から歴史・文学まで
解説も充実しています。
「紅絹色(もみいろ)」の項では、昔の女性は肌に近い裏地などに紅絹(もみ)を
使っていたけれど、染料の紅花には血液の循環を良くする薬効も、とあり、
単に女性らしい色合いというだけでなく、冷えを防ぐために
着るものにも植物の力を上手に取り入れていた知恵に感心させられました。
眺めても読んでも楽しい、日本の色と植物に興味がある方におすすめの一冊です。
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