活動レポート&里山便り(2010年5月)
里山活動レポート:その他
森の未来に出会う旅 その1 (2010年5月24日)
この記事のタイトル「森の未来に出会う旅」は、私(5×緑スタッフ・宮垣)が、
地元・高知県で出会った高知大学の大学院生、井上将太くんが企画・実施している
「建築士のための木造建築セミナー」のタイトルです。
森の未来に出会う旅 - 森から学ぶ木造建築の建築士セミナー in 嶺北
http://www.mori-mirai.com/index.html
高知県は森林面積率が84%で全国1位なのですが、他地域と同じように
林業従事者の減少や、国産木材需要の低迷により、山の荒廃は進んでいます。
高知県内でも、嶺北地域と呼ばれるエリア(土佐町、大豊町、本山町、大川村、旧本川村)は
特に森林率が高く、県内でも有数の歴史ある林業区域ですが、地域人口の減少と高齢化は
歯止めがきかず、日本の山村地域が抱える共通の問題が浮き彫りになっています。
実家は大工さんという将太くんは、大学1年のときに高知の出版社「南の風社」が主宰する
「いなかインターンシップ」というプログラムに参加し、嶺北地域の木材会社で
インターンをしたことがきっかけで、日本の林業が抱える問題を目の当たりにしたそうです。
その後、林業が支えてきたこの地域をまるごと盛り上げたい!という強い想いから
上記のようなセミナーを企画し、この5月からは地域に移り住んで、住民の方々と共に
未来を切り開こうとしています。
ゴールデンウィークの最終日、そんな将太くんを訪ねて嶺北を訪れたところ
木を切り出している森から、原木市場、製材所、木造建築のモデルハウスまで
木材流通の一連の流れをミニツアーで見学させてもらえることになりました。
そのミニツアーのことを、何回かにわけてレポートしたいと思います。
まず最初に訪れたのは、人工林の集団間伐の目的のために設定された「団地」です。
土佐町の毛知田というところにあります。 団地化とは、所有者の異なる小さな山林を
効率良く間伐するために一つの施業区域としてまとめることをいいます。
雨がしとしと降るなか、将太くんについて森の奥深くまで歩いて行きました。
まず最初に立ち止まったこの場所で、将太くんから出題。
「この森は、良い森ですか?悪い森ですか?」
5×緑に興味を持ってくださる皆様ならすぐにわかるかもしれません。
私は人工林の間隔よりも、地面に何も下草が生えていないことが気になり
「悪い森!」と答えましたが、正解でした。
団地の看板にも書いてありましたが、理想的な人工林は、適度に間伐されて
陽が射し込み、足元には豊かな植生(下草、広葉樹)が生茂る森です。
このように間伐されていない森は、陽も射し込まないので非常に暗く
足元には枯れた杉の枝葉だけが重なっています。 立ち枯れしてしまっている
杉もたくさんあります。 下層植生もなく、生き物のいない土壌は大切な雨水を
貯め込むことができず、水源機能は低下し、土砂を流して災害発生率を高めます。
まさに死の森と化しています。
しかしこれでも遠くからみれば、今は杉の葉の緑に覆われているため
「緑の森」に見えるのです。 外から見れば緑だけれど、その中は乾いた森。
まさに、「緑の砂漠」なのです。
すぐその隣には、何年か前に間伐された人工林がありました。
これが本当の「良い森」、豊かな森ですね。
写真が明るいのは、カメラの撮影方法を変えたからではありません。
それだけ陽が射し込み、緑が広がっているのです。
土壌はふかふかで、鳥や虫がたくさんいます。
そして、緑の砂漠との間には、まっすぐな境界線がありました。
5×緑での仕事を通して、間伐や森林管理の必要性は理解しているつもりでしたが
この境界線を目にしたときは、胸がずきんと痛みました。
この境界線をひくのは、人間の手なのです。
戦後の住宅建設ラッシュ時に大量に植林された木は、今まさに成熟期を迎え
間伐・伐採を必要としています。 昔小学校の授業で、アマゾンの森林伐採について
学び、「木は切ってはいけない」と思いこんでいる人はまだたくさんいます。
でも、今の日本では「木は切らなくてはいけない」のです。
嶺北ミニツアーのレポート、第1回はここまでにします。
次回は、木を切るために必要なことを確かめるために、山を降り、
原木が木材として使われていく過程をレポートしたいと思います。
取材・執筆:宮垣 翠 (5×緑スタッフ)
2010-05-24 (Mon)