5×緑ニュース

トトロの緑

これは、ある対談の中の宮崎駿さんの言葉です。
「ひとの居場所をつくる」の著者、西村佳哲さんに教えていただきました。

宮崎駿 もしジブリの経営がいよいよ危うくなったら『トトロ2』を作ると言って、お金を集めようと       (笑)。
     でも、これはもう出来ません。
     まず、トトロの緑を描いてくれたスタッフたちが、僕同様にだんだん歳をとっていること。
     そして、日本の緑の色がすっかり変ってしまったからです。
     『トトロ』は、東京近郊の田舎とその植物を描くという、たぶん初めての試みでした。
     そのときはまだ、都市近郊でも日本の在来種がいっぱい生えていたんですよ。
     今ではほとんど帰化植物です。
     土地をちょっと引っかいた所、宅地開発や畑はもうダメ、除草剤を撒いた所も、すぐに帰      化植物が入り込んできます。
     だから草むらがあっても、スイッチョンともガチャガチャとも聞こえてこない。
     在来種が生えていないので、ウマオイもクツワムシもいなくなってしまった。
     コオロギは鳴いてますけど。

     東京近郊で、在来種が豊かに残っているのは、たぶん皇居と、那須の御用邸のそばの      野っぱぐらいではないでしょうか。

     でも、緑も回復させることは出来るんです。

                                          文藝春秋2013年8月号より

ちょうど昨年末にかけて、東京の荒川水系の植生を調べていた時期でもあり、宮崎さんの言葉がとりわけ心に留まりました。

荒川水系の自然については、「荒川の総合調査」という埼玉県が実施した調査報告書があり、荒川流域の植物についてもつぶさに調査が行われています。

調査が実施されたのは、昭和58年から62年。

「寄居から下流のいわゆる河原が拡がる地域では、帰化植物が圧倒的に多い」「近年、オオブタクサが猛烈な勢いで繁殖している」
などの記述が見られますが、それでも記録されている植物の多くは在来のものであり、サクラソウの自生地(※)も5箇所が確認されています。

「となりのトトロ」が公開されたのは昭和63年。
ちょうど「荒川の総合調査」が行われていた時期に、製作されていたことになります。

こうしてみると、昭和60年頃を境として、日本の都市近郊の植生が大きく変わっていったのかもしれない、と思います。
「荒川の総合調査」は、まさにギリギリのタイミングで行われたことになります。

「でも、緑は回復させることは出来るんです」------「トトロ」の緑を東京が取り戻す日が来ますように。


※サクラソウ......荒川の原野の象徴的な風景であったサクラソウは、時代とともに急激に姿を消し、「田島ヶ原サクラソウ自生地」は特別天然記念物に指定されている。
「荒川の総合調査」では、1978年に25箇所確認されていた自生地が5箇所に改訂されている。

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