2014年10月の記事
続・和歌山 田辺 どこまでもパラダイス
2014-10-30 (Thu)
この地は南方熊楠が米英留学から帰国後に居を構え、終生住んだ場所である。
今回の和歌山行きを機に、熊楠の評伝を読んでみた。
天衣無縫で奇行が絶えず、人と衝突することも多かった熊楠を田辺の人々は温かく迎えている。
評伝を読むと、この田辺時代、人が好くて陽気な町の人々が次々と登場して面白い。
熊楠自身も「当田辺町は、至って人気宜(よろ)しく物価安く静かにあり、風土気候はよし、そのまま当町に住む...」と書いている。
田辺は、地元の「石とみどり㈱橘」の橘さんのお招きで、バイオネスト(※)づくりのワークショップを開くために訪れた。
愛植物設計の山本さんを講師に、5×緑から私とM本君がお供した。
ワークショップの会場は紀伊田辺駅。駅周辺にはコンビニが1軒もない。
代わりに、という訳ではないが、駅前には飲み屋の連なる路地が広がり、「親不孝通り」と称する。
店の数は数百件にも上ると聞いて驚いた。
2日目の夜は、地元の橘さんが同席できず、東京組3人だけで勧められた親不孝通りの一軒へ。
「輿がのるとすごい料理を出すんですが、何しろ親父の口が悪くて」と橘さんは随分心配そうである。
趣きのあるガラリを開けて中に入ると、小さなカウンターに先客が1人。
主人が1人で切り盛りしている。
その先客が帰り、店に3人が残された。
「ここの魚は旨いね!」と山本さんが声をかけると「この店ではナァ、気にいらん客は帰ってもらうんヨ」「急がされたりしたら、まずダメやね。手ェ抜くような料理できしませんワ」「気ィ使こうて店やりたない。メンドウクサイ」と、最初からエンジン全開な感じである。
「何しろ口が悪くて」と言っていた橘さんの心配顔が思い出されて私は内心ヒヤヒヤしていたが、そこは山本さん流石である。ニコニコして、「いやぁ、この店にはぜひ行った方がいいって勧められて来たんだよ」。
元々話好きの主人なのだろう。しだいに思い出話の徒然に。
3年前に「女房を亡くした」と言う。子はなく、今はやもめ暮らし。
聞けば店は元々奥さんと2人、絵にかいたような夫婦(めおと)で営む小料理屋であったらしい。
「実は、僕も妻に先立たれてね」と山本さん。「逝かれた時に5キロ痩せたよ」。
と、すかさず主人が「自分は12キロや!」。
こんなところでも負けず嫌い、が可笑しかったのか、主人も思わず笑って、空気が緩んだ。
その主人、最近週に2回、近所の神社にお参りするようになったと言う。
「前はなぁ、自分が客に乱暴なこと言うたびに女房が『ごめんやで』ってあやまってくれとった。そやけどもぉ、あやまってくれる人がおらんやろ。そやから、神社に行って神サンに『すんません』言うてあやまってんねん』。
してみると、客に暴言を吐いている自覚はあるらしい。
と同時に態度を改めるつもりもないようだが。
最初はヒヤヒヤしていた私だが、やがて上方の人情話をきいているような心持ちになってきた。
「ご主人、最後に一皿何か」と言う山本さんのオーダーに出てきたのが、この太巻き。
M本君をちょっとあごで指して、「兄ちゃん、まだ食えるやろ。大阪の寿司いうたら巻きもンやしな」。
M本君曰く、料理屋で食した皿の内、生涯一、二を争う味であったとか。
辞すると、主人は店の外まで出て私たちを送ってくれた。
※バイオネスト https://www.5baimidori.com/news/201302.htm
和歌山 田辺 どこまでもパラダイス
2014-10-28 (Tue)
熊野三山の入口と言われる滝尻王子から、さらに山あいに入った温川(ぬるみがわ)に、その「パラダイス」はある。
長閑に広がる田畑に囲まれた場所に1年前にできたカフェ。
その名も「パラダイス カフェ」。
カフエのアイドル風太君がのんびり眺める温川は、どこまでも長閑だ
エントランスには「グリーン.スペース 温川」の大きなサインがあって、ここがただのカフェでない事を予感させる。
広々としたカフェスペースには、ヴィンテージなソファがゆったりと置かれ、テラスからは気持ちのいい風が吹き抜けて行く。
このカフェを運営する(株)ホワイトスペースは、和歌山の田辺市に本拠を置くグラフィックデザインの会社。パラダイスカフェができてからは、この場所にオフィスを移したという。
実は、5×緑が参加したシェアオフィスに、ホワイトスペースさんの東京事務所も加わった。
縁というのは不思議なもので、ほどなく和歌山の田辺でワークショップを開くお話があり、その帰りにこうして足を伸ばしてカフェを訪れることができたのである。
カフェの名物は石窯のピザ。
クリエイティブディレクターOさんがピザを焼き(最初にお会いした時「ピザ職人です」と自己紹介された時は面喰らった)、A 社長自らがカットする。
山で出る間伐材を利用するために石窯のピザをメニューにしたとか。で、ディレクター自らがビザ焼きを一から修行したというわけ。
私たちがテーブルに座っていると、A社長がやってきて、「焼きカレーは?注文した?」
私たちがピザしか頼んでいないと言うと、「そりゃあかん」とそそくさと立ち上がって厨房へ。
このカレーが絶品だった。
もちろんピザも。
特製のブレンドコーヒーは驚くほどコクがある。
うーん!パラダイス!!
元は紡績工場だったというその場所は、バックヤードも広く、そこに地元の和紙の作家が作ったというインスタレーションが展示されていた。
ここで定期的にコンサートが開かれているという。
温川の隣の龍神村にはここ数年、アーティストや作家が移住していて、それぞれに活動していたが、このカフェができて、ここがネットワークの結節点になっているようだ。
この日もカフェの中で、草木染めや和紙などの作品が即売されていて楽しかった。
ホワイトスペースさんにはグリーン事業部があって、なた豆の生産に力を入れている。
長さ30cmから50cmにもなるなた豆は、古来から漢方として重宝されていて、パラダイスカフェでも健康茶として販売している。
時代の先端と切り結ぶようにしているであろう広告の世界に身を置く会社が、どうして緑濃い和歌山の地にこだわるのか。
この春、遠野で出会った徳島の神山町にオフィスを移したIT企業Sansanの寺田さんたちのことを思い出した。
パラダイスカフェ
2014-10-23 (Thu)
笙の調
2014-10-23 (Thu)
雅楽の素養など全くない私ですが、それでも冴えざえとした秋の月のような清澄さを感じることができました。
後はたゆたう舟の上。
流れる調べに身を任せておりました。
雅楽の調は古来、五行に基づく四季や方位に対応しているそうで、この日聴いた平調は秋/西/金音に、双調は春/東/木音に、黄鐘調は夏/南/火音に対応しているようです。
また、古書には笙の調子のあるべき姿を「平調は、春風に柳のたをれかかる如く、これを吹くべし」などと書かれている、とパンフレットにあるのを面白く読みました。
季節を感じる心はこんなにも深く日本人の中に染み込んでいるのですね。