恵比寿日和

「つり鐘の蔕(へた)のところが渋かりき」

 

柿が色づき始めてきた。

 

柿といえば

 

  「柿食えば鐘がなるなり 法隆寺」

 

が何といっても有名だが、私は同じ子規の句でも、この「つり鐘」のほうが好みである。

病間の子規が、京都の僧侶からお見舞いにもらった「つり(釣り)鐘」という柿を食べ、そのお礼代わりに読んだという句だという。

 

食べた柿の、その蔕のところが渋かった。ただそれだけのこと。

 

でも、このときの子規は不治の病に侵されていた。

 

近づいてくる死を前にして、これが最後の柿かもしれないと思いながら、はじめての口にした品種の柿のヘタのところが「渋かった!」。

 

それはきっと子規にとっては、「大発見」な出来事だったに違いない。

 

病床にありながら、健康的だった子規の晩年の生き方は「仰臥漫録」などの書物を読めば歴然である。

 

淡々と何気ないようにみえる句のどれもが、いつ読んでも味わい深く、すがすがしい気持ちにさせてくれる。

 

さて、今月の句会の兼題は「柿」......

同郷の大先輩でもある子規に敬意を表して何とか 「会心の句を!」と思ったのだか、これがなんともデキナイ。

 

   柿届く 15万石 城下より 

 

ちょっとおふざけっぽいかな~思っていたのに、2人が点を入れてくれたので、ちょっぴりうれしかった。

 

さすがと思える柿の句がいくつもあったので、こっそりご披露。

 

木守柿と名前を変へてひとつ柿       桃兎

 

   モノクロの里に灯りし熟柿かな       静夜

 

柿は晩秋の"ともしび"だと実感した次第。

                                                                                                                  

 

   

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